エッジコンピューティングとは?関連ソリューションやクラウドとの役割分担を解説

近年、従来のIoTにおける課題を解決する技術として、エッジコンピューティングに注目が集まっています。そこで今回は、エッジコンピューティングの基本や普及に至った背景、関連ソリューションやクラウドとの役割分担などについて解説します。自社の業務にお役立てください。
目次
エッジコンピューティングとは【用語解説】
エッジコンピューティング
エッジコンピューティングとは、企業内、工場内などIoTデバイス付近でデータを処理する技術です。デバイスから送信されたデータの収集・分析などの処理を分散化させて、必要なデータのみクラウドに送ることも可能であり、従来のクラウドコンピューティングよりも扱うデータ量が少ないことが特徴です。
クラウドコンピューティング
クラウドコンピューティングとは、インターネット環境でサーバーやネットワーク、ソフトウェアなどのコンピューティングサービスを利用できる技術です。単に「クラウド」と呼ばれることもあります。ネットワーク経由でデータを処理できるため企業内にリソースが不要であり、手間やコストを省くことが可能です。
IoT
IoTとはInternet of Things(モノのインターネット)の略称です。センサーやシステムなどあらゆるモノから情報収集し、集めた情報はクラウドやエッジで蓄積・分析され、分析結果に応じてモノが作動してフィードバックを起こします。
シングルボードコンピュータ
シングルボードコンピュータは、プリント基板の上にパソコンに必要な要素を搭載したコンピュータのことです。OSを搭載しており、エッジコンピューティングのデバイスとして広く利用されています。
マイコンボード
マイコンボードとは、マイコンを搭載した基盤のことです。シングルボードコンピュータと同様に、エッジコンピューティングに利用されていますが、マイコンボードはOSを持たないため、より簡単な処理に適したデバイスと言えます。
エッジコンピューティングが注目される理由
エッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングの課題を解消できる技術として注目されています。クラウドの課題は、具体的には以下の3つです。
ネットワーク負担の深刻化
IoTの数が増えるに従い、クラウドではネットワークへの負担が増大します。クラウド側のサーバーやネットワーク回線を強化しなければ膨大なデータの処理は困難で、維持管理にかかる費用負担も深刻化します。
リアルタイム性の追求
クラウドでは、ネットワークの負担が膨大になるとデータ処理に数ミリ秒単位の遅延が起こります。車の自動運転や製造ラインの機器など、リアルタイム性が求められる現場ではわずかな遅延が致命的となる場合があります。
セキュリティリスク
クラウドでは外部ネットワークを介してデータの処理・分析などを行うため、情報漏洩といったセキュリティリスクの問題が懸念されています。自社の貴重なデータを奪われないため、また、個人情報を流出させないために、クラウドを用いずに内部でデータを処理しようと考える企業も多いです。
エッジコンピューティングの導入理由
リアルタイム性
エッジコンピューティングが導入される理由として、リアルタイム性の高さが挙げられます。従来のクラウドで情報処理を行うIoTでは、通信時間遅延(レイテンシー)が生じることが問題となっています。一方エッジコンピューティングでは、デバイスやサーバーが物理的に近いため、レイテンシーの軽減が可能です。
リスクマネジメント
クラウドでは、クラウド側でトラブルが起こると、業務が停滞したりデータが喪失したりするリスクがあります。しかし、エッジコンピューティングを併用している場合、クラウドサービスがダウンしても継続して稼働することが可能です。BCP(事業持続計画)対策としても有用と言えるでしょう。
DXへの有効性
エッジコンピューティングを導入すると、報処理のリアルタイム性が高まるため、従来のクラウド型IoTで課題となっていた諸問題の解消につながります。そのため、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にも有効です。製造業を始めとする各業界でDXが重視されており、その流れは今後さらに強まる見込みです。
セキュリティ性
エッジコンピューティングは外部にデータを出さず自社で情報処理できるため、漏洩リスクが低いこともメリットです。セキュリティ性の高さもエッジコンピューティング導入の理由と言えるでしょう。
また、クラウドにデータ送信する場合も、セキュリティ対策を施した形に変換することが可能です。エッジコンピューティングを支えるセキュリティ関連のソリューションについては、後述します。
エッジコンピューティングを支えるソリューションとは?
エッジコンピューティングを可能にするソリューションを紹介します。
LPWA
LPWA(Low Power Wide Area)とは、低消費電力で長距離通信を可能とする無線通信技術の総称です。電力の供給できない屋外環境などでも使いやすい通信方式であり、IoT社会を支える技術として注目が高まっています。
ゼロトラストセキュリティモデル
ゼロトラストセキュリティモデルとは、あらゆるトラフィックを信用しないという前提のもと、内部・外部のネットワークすべてのアクセスを制御するセキュリティモデルです。従来の境界型セキュリティでは内部からの情報流出に弱いという限界があり、ゼロトラストセキュリティモデルは境界型に代わる次世代型モデルと評価されています。
IoTとエッジコンピュータ間、エッジコンピュータとクラウド間で異なる通信方法を使い暗号化し、ゼロトラストセキュリティモデルを導入すれば盤石なセキュリティを築くことが可能です。
エッジAI
エッジAIとは、エッジ端末の付近に搭載したAIで学習・分析させる技術です。データの発生源の近くでAIが推論できるようになると、たとえば製造現場などでは、製品の品質判定におけるリアルタイム性が向上します。AIの機械学習と深層学習を武器に、エッジコンピューティングの性能を高めることが可能です。
AIの学習能力
AIの高度な学習能力は、「機械学習」と「深層学習」によって支えられています。機械学習とは、AIがデータをもとに情報を直接学習し、適した判断を下せるようになる技術です。深層学習は、機械学習をさらに発展させたものと言えます。
AIが自動的に分析対象を判断するポイントを抽出して精度を高めていく技術です。深層学習では、意図していなかった方向に学習が進んでしまわないように、インプットするデータを人間が吟味する必要があります。
AIができる処理
AIが適応できる処理を以下に5つ示します。
・音声処理
・画像処理
・言語処理
・機械制御
・データを使った推論
音声処理は、音声に反応したりテキスト化したりする技術です。画像処理は、画像・動画の認識を可能とします。その他にも会話や作文を行う言語処理技術、自動車などの機械制御技術、囲碁や将棋の推論などが可能です。AIの処理能力は今後さらに発展していくでしょう。
エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの使いわけ
エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングには、それぞれ適した分野があり、相互に補完し合うシステム構築が重要です。
エッジコンピューティングが得意な処理
エッジコンピューティングはローカルでデータを処理するため、レイテンシーが少なく情報漏洩リスクが低いです。そのため、高いリアルタイム性が求められる処理や、デバイスやシステム
クラウドコンピューティングが得意な処理
クラウドコンピューティングではクラウドサーバー上でデータを集約させるため、膨大な量のデータを管理・情報共有する処理に適しています。拡張性や柔軟性の高さもメリットです。
エッジコンピューティング注意点
エッジコンピューティングは、従来のクラウドコンピューティングよりも初期導入コストが高くなりがちな点に注意が必要です。システムの規模が大きく複雑になるほど、システムの構築にコストがかさむため、コスト対策が不可欠となります。
また、ここでいうコストとは金銭的なコストを指すだけはありません、システム構築や管理・運営にかかる時間やノウハウ蓄積などに注意が必要です。
エッジコンピューティングのコスト対策とは
低コストでエッジコンピューティングを運用するには、各拠点に担当スタッフを常駐させるのではなく、本社などから遠隔的にエッジサーバーを管理・メンテナンスできる必要があります。
また、各拠点で最低限のトラブルを対処するために、マニュアルを配備することと同時にエンジニアの育成も大切です。エッジコンピューティングを導入するとクラウド関連の通信コスト削減につながるため、費用対効果を総合的に評価する必要があるでしょう。
エッジコンピューティングの活用事例
Spresenseはソニーが開発したスマートセンシングプロセッサCXD5602が搭載されたボードであり、省電力性や高い信頼性などが強みです。Spresenceとエッジコンピューティングを組み合わせた事例を紹介します。
感染症予防対策
調布市の新型コロナワクチン集団接種会場における安全管理の実証実験で、Spresenseを用いたエッジコンピューティングが使用されました。二酸化炭素濃度や温湿度、環境雑音などの各種IoTセンサーを用いて三密・熱中症リスクのモニタリングが行われ、この研究からIoTによる手軽な環境センシングやAIによる分析・予測の普及につながることが期待されています。
放射線のモニタリング
原子力災害直後でも機動的な放射線モニタリングを可能とするツール「超小型KURAMA(クラマ)-II」にも、Spresenseが採用されています。Spresenseは消費電力が極めて少なく、電池でも長時間の稼働が可能であるため、災害発生時の停電や通信網の寸断といった過酷な環境下の使用にも適しています。
牛の行動観察
東京工業大学、信州大学および電通国際情報サービスの共同プロジェクトチームが開発した牛の行動観察システムにも、Spresenseを用いたエッジコンピューティングが活用されています。
首輪型センサーから得た牛の行動をAIが分析して病気の兆しなどを検出するものです。高性能で低電力消費であるSpresenseは放牧下の長期間動作を可能とし、多様なデータ分析に活躍しています。