IoT導入の課題と解決策とは? 3つの課題とその解決策について解説

IoT端末の活用は急速に進んできましたが、残された課題もあります。この記事はIoT端末の活用に興味がある人に向け、IoT導入の課題と解決策を紹介しています。主に通信負荷や消費電力、セキュリティなどの技術的な分野に絞って解説しているので、開発や導入の参考にしてください。
目次
IoT活用における中期的課題の概要
2016年に経済産業省がまとめた資料によると、IoTを進展させるための中期的課題は次の4つです。
1つ目は、無数のIoT機器が活用されることによるデータ爆発と、それによってレスポンスのリアルタイム性が確保できなくなることです。
2つ目は、信頼性やセキュリティが担保できない課題です。特に、交通やインフラなどの重要な機関における大規模なシステム停止リスクが問題となっています。
3つ目は、セキュリティカメラや各種センサーなどによって個人のプライバシーが脅かされる問題です。
4つ目は、GAFAなどの大企業によるデータ独占です。これによりIoT関連企業の参入・成長が妨げられるのではないかと分析されています。
この記事では、上記課題のうち、通信負荷や電力、セキュリティ、開発や運用などの技術的な課題に絞って解説します。
IoTの課題1:通信負荷・電力
ここでは、IoTの課題として重要なネットワークの通信負荷と電力消費を解説します。
通信負荷によってレスポンスが遅くなるリスクがある
ネットワークに加わるIoT端末が急速に増加しています。2010年ごろに100億とされたIoT機器は2020年ごろに500億、2050年ごろに数千億になると経済産業省は試算しています。
IoT端末が普及することで引き起こされる問題は、通信負荷の増大です。単に機器が増えるだけでなく、収集できるデータ量も増えるために、相乗効果でデータ爆発が起きることになります。
このため、従来の集中管理型のネットワークシステムでは対処できないケースが増えてきました。動作の信頼性や性能の観点からリアルタイム性を確保することがIoTの課題です。
省電力のIoT端末が求められている
各種センサーが搭載されるほど、電気消費用は増えます。また、遠隔操作で距離が離れるほど、無線通信によって電力消費は大きくなります。
そのため、省電力のIoT端末の必要性が高まってきました。特に災害用の機器や人が立ち入れない環境で動作するような場合は、IoT端末のライフラインである電力消費をいかに抑えるかが重要です。
IoTの課題2:セキュリティ
ごく小さなIoT端末も、ネットワークに接続されている点ではパソコンやサーバーなどと変わりません。どのようなセキュリティ上の課題があるのでしょうか。
セキュリティ対策を更新しにくい
IoT端末では、パソコン上でウィルス対策ソフトをアップデートするようには、セキュリティ対策が簡単にできません。そのため、ライフサイクルが長いIoT端末は新たな脅威に対応できず、サイバー攻撃の標的になってしまいます。
なかでも深刻な脅威となっているのは、IoT端末に侵入してプログラムを改ざんされてしまうことです。そのため、ローエンドなIoTにも組み込めるセキュリティ対策の重要性が高まってきました。
例えばNECは、ソニーセミコンダクタソリューションズのマイコンボード「SPRESENSE」向けのライブラリを公開しています。ライブラリを利用すると、他のコードを変更することなく、改ざん検知機能を容易に追加できます。
ヒューマンエラーが起きやすい
IT機器という意識が薄くなりがちなIoT端末は、セキュリティ意識も下がる傾向があります。また、数が多く管理の手間がかかるため、ヒューマンエラーによるセキュリティリスクが高まりやすいことも指摘されています。
こうした問題を予防するためには、IoTのネットワーク層の仕組みを理解するなど、従業員に対する基礎知識の研修が必要です。
IoTの課題3:開発や運用のハードルが高い
IoT活用では、成果が出るまでのスパンが長くなることもあります。ここではIoT端末の開発や運用でどのような課題が出やすいか解説します。
データの収集・分析からスタートする必要がある
IoT端末の開発・運用についてノウハウがない場合には、実用化までのコストが大きくなりがちです。例えば、AIの機械学習では、学習用サンプルを集めて、学習させるところから始めなければなりません。初期費用が少なかったとしても、データ収集と分析の負担が大きくなれば、コストや時間が想定以上に大きくなってしまうでしょう。
IoTエンジニアを確保できない
IoTが実用化されるようになったのは2000年以降のことであり、IoTに詳しいエンジニアは不足しています。したがって、企業が優秀な人材を登用することも難しい状況です。スキルや経験を持つエンジニアがいない場合、ネットワークの構築やセキュリティ確保などで問題が生じる場合があります。
長期的な視点で取り組む必要がある
IoT活用では、すぐに結果が出ないことも少なくありません。例えばIoTを農業に活用する場合は、年単位の長期的な視点で取り組まなければ成果が出せないプロジェクトも多くあります。
そのため、マイコンボードやAI、アプリケーションなどを一から始める場合は、順調に進まないリスクが高くなります。継続的な予算確保や経営層の一貫した姿勢も必要です。
IoT課題の解決策1:エッジコンピューティングと省電力のIT端末の採用
エッジコンピューティングや省電力の端末の採用は、IoTの課題解決につながります。ここではそれぞれの技術の概要や導入メリットについて解説します。
エッジコンピューティングによる通信負荷の軽減
ネットワーク負荷の軽減には「エッジコンピューティング」が効果的です。エッジコンピューティングとは、端末上でデータ処理をすることで、自律的分散制御を実現する技術です。
従来はIoT端末と処理装置が分割されていたために、通信量が増大する傾向にありました。一方、エッジコンピューティングを導入すれば、クラウド側との通信は減ります。さらに、クラウド側への負荷を減らせることから、中央管理設備の費用を抑えられるのもメリットです。
こうしたことから、エッジコンピューティングは、今後のIoT活用のカギになる技術になると期待されています。
省電力のIT端末の採用
電力消費の課題を根本的に解決するには、省電力のIT端末を採用する必要があります。例えば、SONY「SPRESENSE」は電源ケーブルを接続することや、頻繁なバッテリー交換を必要としない省電力のマイコンボードです。
SPRESENSEには、メモリタイル単位や電源ドメインごとの給電制御機能や、3種類のスリープ機能、動作クロックの切り替え機能などが搭載されています。これらの省電力機能により、山岳や海上などの遠隔地での幅広い活用が可能です。
また、電源設備が整ったFA分野でも、省電力の端末が重要になっています。24時間365日稼働の施設などにおいては、補助電源なしに動作し続ける端末は、システム停止リスクを軽減できるからです。
Iot課題の解決策2:暗号化技術とNIDD・LPWAの導入
セキュリティに対する課題解決には、暗号化技術やNIDDの導入が有効です。
暗号化技術を導入する
IoT端末を狙ったサイバー攻撃は増加傾向にあります。用途によってはIoTでも暗号化技術の導入が必要です。
具体的には、処理能力が低いIoT端末では、暗号化チップによって対策を行う方法が効果的です。そのため、暗号化が必要な場合は、暗号化チップを追加できる拡張性を備えたマイコンボードを開発するか、既存の製品を導入しましょう。
IPを使わない通信規格を採用する
NIDD(Non-IP Data Delivery)は通常のインターネット通信で使われるIPを使いません。そのため、サイバー攻撃の標的になりにくいことがメリットです。
また、LPWA(Low Power Wide Area)の広域通信の一種であり、独自プロトコルで通信量が少ないために、もともとIoT端末に向いている規格です。IoT端末への導入を検討するとよいでしょう。
Iot課題の解決策3:IoTエンジニアの育成と汎用ボードコンピュータの活用
IoTの分野は比較的新しい技術分野になります。そのため、IoTエンジニアは不足しており、これはこの分野の拡大とともにしばらく続くでしょう。また、そもそもIoTプロジェクトのTATが長いという課題もあり、長期視点でIoTエンジニアおよび、エッジAIエンジニアを育成することが大事になってくるでしょう。
とはいえ、何もノウハウがない状態から、短期間で自社開発して実用化につなげるのは困難です。そのため、既存のボードコンピュータをベースに開発するのが効率的です。特にデベロッパーや運用者へのサポートが充実しているメーカーの製品を選べば、幅広いスキルのエンジニアやスタッフが活用しやすくなるでしょう。
例えば、「SPRESENSE」はDeveloper Worldに開発者向けのプログラムを公開しており、電子工作ファンから大企業のIoT端末開発部門まで幅広く利用されています。IoT端末活用をはじめたばかりの場合や、自社開発に限界を感じている場合は、SPRESENSEを試してみてはいかがでしょうか。
まとめ
IoT端末は急速に普及が進んでいる一方、通信量の増大や電力消費、セキュリティなどの課題も出てきています。これらの課題の解決には、エッジコンピューティングや省電力端末の採用、暗号化チップを拡張するなどの方法があります。
センシングカメラやドローン、スマートスピーカーなどのIoT端末の活用に興味がある人におすすめしたいのが、「SPRESENSE」です。SPRESENSEは省電力と高い信頼性・演算能力を両立したIoT向けスマートセンシングプロセッサ搭載ボードです。複数マイクでの集音機能や拡張性を備えているので、分野を問わず幅広く活用していただけます。