AIによる予知保全とは?活用方法と導入における注意点を解説

少子高齢化が進む日本社会において、労働力不足は深刻な問題です。労働力不足の改善や業務の効率化につながるAI予知は、多くの企業が注目しています。予知保全とは、AI技術で機械設備を管理し安全を保つ方法です。
本記事では、AI予知の導入に向けて知っておきたい活用法や導入における注意点について解説します。AI予知の概要から活用方法まで知りたい人は、ぜひ情報を役立ててください。
目次
AIによる予知保全とは?
予知保全とは、機械設備の不具合を事前に検知して事故やトラブルを防ぐことです。予知保全にAI技術を導入するメリットは、主に2つあります。
・予知保全の精度を高められる
・予知保全を効率化できる
機械設備の故障の初期サインは、わずかな劣化や破損である場合が多く、人が予知保全を行うためには経験と技術が求められます。AI技術による予知保全は、機械設備に異常や故障が起こる前に対処できるため、事故リスクの回避に効果的です。
製造業におけるAI予知の活用
製造業では、機械設備の点検や製品の品質チェックが欠かせません。工程数が多い製造業において、AI予知の活用はさまざまな問題解決に役立ちます。
メンテナンス業務の効率化
これまでは、必要かどうかもわからずに部品の交換時期目安にあわせて機械設備のメンテナンスが行われてきました。AI予知では、機械設備に必要なメンテナンス時期の予測が可能です。AIによる部品や設備の正確な状態のチェックにより、修理や交換が必要なタイミングにあわせてメンテナンスができるため、業務の効率化が期待できます。
技術者同等の優れた予知保全を目指すためには、継続的なAI予知によるデータ蓄積がポイントです。
品質管理の自動化
機械設備管理と同様に、品質管理にも時間や労力がかかります。また、熟練の技や経験も必要です。製造ラインにセンサーを用いることで、小さな不具合に気付きやすくなり品質管理の手間やコストを大幅に削減できます。AI導入により品質管理を自動化できれば、製造業界の課題である労働力不足の改善が可能です。
製造設備の故障予知
AIによる製造設備の故障予知は、生産性を高め維持する効果があります。製造設備の状態が悪いと、生産や出荷を予定通りに進めることができません。万が一、故障により生産設備が停止すれば企業にとって大きな損害になります。
予想していないタイミングで製造設備が故障した場合、労働者は呼び出しや報告などの対応が必要となり、手間と精神的負担が大きくなります。生産設備の停止を未然に防ぎ労働者の負担を軽減するためには、AI導入がおすすめです。
防犯・防災のAI予知への活用
通常用いられる防犯カメラは、検知から把握までにタイムラグが生じます。一方で、エッジ処理によるAI予知が行えるカメラやセンサーは既存の防犯カメラやセンサーに比べて短いタイムラグでセキュリティー管理ができる点が特徴です。ここでは、防犯・防災に役立つAI予知の活用について具体的に解説します。
AI画像認識による「侵入検知」
AI画像認識を使うと、害獣・不審者・不審車両など検知すべき対象の絞り込みが可能です。動くもの全てに反応する侵入検知とは異なり検知対象を限定できるため、農作物の被害や工場内などへの不正な立ち入りを的確に防げます。検知精度を高めるためには、AIにできるだけ多くの画像データを学習させることがポイントです。
AI異音検知による「故障・異常の早期発見」
異音検知では、人が耳で感じるのと同様にAIも異変を感じ取り検知します。ガラスの割れる音や悲鳴、機械などの異常音などを検知し、工場内や店舗などでのトラブルや異常を知らせてくれるため、防犯・防災に活用可能です。
異音検知と防犯カメラを連動させて故障や異常を発見すると、通知・発砲だけでなく、カメラの録画データへのマーカー挿入なども行うことが可能です。画像の観察だけでは発見がむずかしい故障や異常も見つけやすくなる点もメリットです。
AIセンシング検知による「事故防止」
映像によるAI検知は、作業者や部外者などが工場や敷地内の危険なエリアなどへの立ち入りによる事故防止にも役立ちます。また、ウェアラブル機器などのセンシングにより、作業者の様々な情報を取得することができれば、体調不良や不自然な動作を検出できます。作業者の体調不良が原因で事故が起こるケースも少なくありません。こういった事故を未然に防ぐことができます。
AIによる過去の事故データ解析と学習により、企業は労働者に対して迅速な事故・災害リスクの周知が可能です。AI予知を活用して作業の安全性を高めるためには、事故・災害が起こりやすい状況の理解と事故防止への取り組みが欠かせません。
AI予知に必要なものは3つ
AI予知のためには、センサー・システム・データの3つが必要となります。AI予知の導入前に、それぞれの役割や必要性を理解しておきましょう。
最適な各種センサー
AI予知の精度を高めるためには、高品質なデータを収集できる装置やセンサーの選定が重要となります。良質な画像を撮影できる装置やイメージセンサーはもちろん、音声取得のためのマイク、加速度・ジャイロのような物理センサー、脈波・発汗のような生体センサーなど様々なものを最適で高品質なセンシングできることも必須です。
収集したデータの品質次第では、異常や故障を正確に見つけられないため、目的にあった装置やセンサー機能を追加しましょう。
システム構築
AI予知でデータの判別を行うにあたり、データの取得、取得データの管理、データ解析とAI構築など、様々な処理が必要になります。このため、それぞれの処理に対して必要なスペックのコンピューティングリソースが必要になります。これらのデバイスをどのように構成し、どのような処理を割り当てていくのか、どのようにネットワークを構成して、どのようなセキュリティーを施すのか、などのシステム構成の構築も必須なものになります。
また、各種LPWAやLTEのようなコネクティビティ―を使ってネットワークを構成することで、クラウド側とのAIともつながることができ、より複雑なAIを構築することもできます。
データ
AI予知は、事前にAIが学習したデータをもとに異常を判別する仕組みです。AI予知の精度には、学習したデータ量と内容が大きく影響します。データ量が多く質が高いほど、ハイレベルな判別が可能です。
AIに学習させるデータは、製造業であれば不良品や異常につながる画像や音のデータ、農業であれば侵入を防ぎたい害獣や関係者以外の人物データなどが挙げられます。判別に使うデータは、それぞれ100枚以上が目安です。
データが不足している場合の対策
AI予知のために必要な3つの要素の内、最も準備がむずかしいものが、十分学習できるだけのデータの準備になるでしょう。特に異常検知・故障予測などの場合、不具合の頻度が低く十分なデータ入手できないケースが多くあります。このような理由でAI学習に使えるデータが少ない場合は、「教師なし学習」によってAI予知を行います。
以下、教師なし学習の代表例である3つ(PCA、SVDD、RPCA)を簡単に紹介します。
PCA(主成分分析)
PCAとは、データ解析手法の1つです。各データをできるだけ次元の少ない変数に置き換えて分析を行うことで、分析の計算コストを下げ、可視化できるデータの集合にすることで、正常値と異常値の分類を容易にします。
PCAの主な活用方法
- 異常検知
- パターン認識
- 暖房や冷房装置
- 風力タービン
SVDD
SVDDは、類似度を示す関数を使用し、通常状態を柔軟にモデル化する方法です。異常の実例が少なくサンプル収集がむずかしい場合や、過去のデータが不十分な場合に適しています。
サポートベクトルデータ記述法では、正常と考えられるデータのほぼ全てを含みつつ、可能な限り小さな超球となるように、半径を最適化します。テスト時には、最適化された超球からどの程度離れているかによって異常判定を行います。
支持ベクトルデータ記述法 (Support vector data description; SVDD) はいわゆる1クラス支持ベクトル分類器 (one-class support vector machine) と等価であることが知られています。 「SVMによる異常検知」ということです。
SVDDの主な活用方法
- 健康管理
- 詐欺の識別
- 侵入検知
- 機器予後診断
RPCA
RPCAは、ベースとなるPCAの統計的基準に修正を加え、ロバスト性を高めたデータ解析手法です。データ数値に大きな開きがあっても適切に機能します。
RPCAの主な活用方法
- 異常検知
- 画像処理
- 行列圧縮
AI予知導入における注意点
AI予知導入により業務の効率化やセキュリティー強化などを目指すためには、導入後の取り扱いや活用に注意が必要です。AI予知の仕組みや特徴を理解して適切に活用しましょう。
システムを十分に理解する
AI予知には、少なからずタイムラグが生じます。異常や故障発生から解析までにかかる時間やシステムの性質への理解が重要です。また、システムの経年劣化やニーズにあわせたモデル更新、定期的なメンテナンスも必要となります。
AI予知以外の判断基準を持つ
異常や故障を検知できる確率が明確なデータ学習に比べて、教師なし学習は判別の精度が劣る点が大きな課題です。それぞれの特徴を理解した上で、適切な手法を用いましょう。
判断基準をAIのみとした場合、AIの機能に不具合が生じれば業務がストップしかねません。万が一に備えたり判別の精度を高めたりするためにも、複数の手法を組みあわせて独自の判断基準を持っておくと安心です。
まとめ
AI予知は、業務の効率化や品質管理の自動化を目指せます。ただし、装置やセンサ機能などによって判別制度に差が生じるため、性能や特徴を比較した上で最適なものを選びましょう。
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